一月十五日。
私達は姉妹に戻ることが出来た。
多少ぎこちなさはあったかもしれない。
何を今更と思うかもしれない。
それでも私達は互いの空白の時間を埋めるように、感情をぶつけ合った。
尽きることなく会話を続けた。





私は栞の姉であることを実感していた。

















伝わる想い 第三十一話「一月十六日 上」

Written by kio









その日、私達は久しぶりに同じ布団で寝ることになった。
とは言ってもお互いに眠気が訪れることはなく、夜が明けるまでおしゃべりを続けていた。
そのどれもが平凡な日常の一コマに過ぎないはずなのに、私にとってはとてもかけがえのないものに思えた。
同時にそんなことさえも知ろうとしなかった私が愚かしかった。

「お姉ちゃん」

私の傍らで可愛らしい声が聞こえる。
彼女の口からお姉ちゃんと発せられる度に私は妹を抱きしめたくなる。
事実、そうしていた。
栞は拒むことなく私に身を任せていた。

「どうしたの?」

自然と優しい声で私は尋ねていた。

「ええと、ですね」

そう言って栞は人差し指を自分の口元に寄せる。
可愛らしい彼女の癖だ。

「呼んでみただけです」

えへへ、と恥ずかしそうに彼女は笑った。

「もう、この子ったら」

軽く拳骨を作って、彼女の頭を叩く。
もちろん力なんてこれっぽっちも込められていない。

「えへへ」

今度は照れた顔で栞が笑みを見せる。
もしかしたら私達はとんでもなく恥ずかしいことをやっているのかもしれない。
でも、良いの。
私達は姉妹だし、これを長年夢見ていたのだから。












一月十六日。
日が変わり、学校へ行く時間となった。
もちろん今日は自主休学だ。
母は昨日何があったのか察してくれたらしく、何も言わずに許してくれた。

「お姉ちゃん、学校は?」

無邪気な顔で妹が尋ねてくる。

「休むわ。昨日は栞が寝かせてくれなかったからね」

そう言って、ウインクをしてみせる。
彼女の顔がポッと赤くなった。

「うぅ……そういう誤解を招くような言い方は止めてください〜。そんなこと言う人は嫌いです」

プイッと栞がそっぽを向く。

「ふふっ、冗談よ」

年上の余裕をここぞとばかりに発揮してみる。

「うぅ……意地悪です」

さらに彼女はいじけてしまったらしい。








…………。

………。

……。



いつの間にか栞は眠ってしまっていた。
今は元気にしているものの彼女が病人であることには変わりない。
少し無理をさせてしまったのかもしれない。
私は栞を起こさないように布団から抜け出す。
確か今晩の食事の材料を買いに行かなければならないはずだ。
両親が共働きのため、私が食事を作るのは日常のこととなっていた。
栞を無視していた頃、彼女は私の作る料理をいつも美味しい美味しいと言ってくれた。
食事を共にすることはほとんどなかったが、その言葉は毎日のように聞いていた。
胸が締め付けられる。
そんな栞に答えられなかった自分を殺したくなる。
今は平静を保っているが、ふとした瞬間、罪悪感が私を責め立てる。
それは死への衝動を含んでいた。
もしかしたら、私は栞が死んだら──。
考えるのはよそう。
栞が死ぬなんて考えてはいけない。
ましてやその後のことなんて──。






私は栞に満足してもらえるような料理を作るために、商店街へと買い物に向かった。















そこで目撃することとなる。
相沢祐一が笑顔で二人の女性と一緒にいるところを。




















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