「俺はどうしたいんだ?」



答えるものは誰もいない。沈黙は答えにはならない。答えが見つからない。



・・・いや、本当は答えは分かっていた。



だけど、心の奥底でもう一つの可能性を考えている自分がいる。



俺は2人の少女と約束をした。きっかけは小さなことから始まった約束。



だけど、彼女たちにとってはとても大きな意味を持つ。



・・・そして、俺にとっても。



約束は守らなければならない。



でも、守れない約束だってある。



今、一人を選んだら、もう一人には嘘をついてしまうことになる。



・・・それでも、決断の時は待ってはくれない。



だから、俺は自分の中にある答えを認めよう。




















たとえ、彼女を傷つけることになったとしても。






































伝わる想い 第十九話「月明かりの下で」

Written by kio









真夜中の学校。そこは冷たい空気と静寂が支配する場所だった。

初めてここを訪れた記憶がよみがえる。ほんの数日前のことなのにとても懐かしい気持ちがする。

窓からは微かに月光が差し込み、幻想的な雰囲気が暗闇の中に生まれる。



そして、そこにはあの時と同じように彼女がいた。月光を身に纏っている彼女がいた。


・・・彼女を見て、改めて綺麗だと思う。恥ずかしくて口には出せないけれど、本心からそう思う。

だけど、同時に俺の目には儚げで、悲しそうに彼女は映っていた。

彼女に二度とそんな雰囲気を持たせてはいけなかったはずなのに・・・

俺はまた過ちを犯そうとしていたのかもしれない。



だから、伝えよう、俺の答えを。幸せな時を彼女と過ごすために。


「よう、舞」


あの日、初めて彼女に涙を見せた日の自分が脳裏に浮かぶ。でも、今日は涙を見せるわけにはいかない。だから、俺は強い自分を演じる。


「・・・祐一」


彼女はあまりにも弱々しくて、今にも消えそうに見えた。

守りたい。彼女を守ってあげたい。心から思う。彼女をいとおしいと思う。

だから、自分の弱い心は彼女に見せてはいけない。強い自分を演じて、彼女を安心させてやらなければならない。


「舞、お前実は毎日来ていただろ?」

「・・・(コクリ)」


いつもと変わらない俺の口調といつもよりも儚げな彼女の動作。

普段通りを演じることが一番難しい。それでも俺はうまく自分を演じれているように思った。


「まぁ、いいか。そのおかげで舞と合えたんだしな」


本当は彼女がここにいることは分かっていた。何故か分かっていた。きっと彼女ならここにいるだろうという確信があった。


「・・・祐一、大丈夫?」


その問いは今の俺に対するものか、昼間の自分に対するものかは分からなかったけれど、


「・・・俺はもう大丈夫だよ」


優しく、澄んだ声で俺は答える。自分でも不思議なくらい俺の心は落ち着いていた。


「舞、俺はお前に言いたいことがあるんだが、良いか?」

「・・・(コクン)」


彼女からはまだ不安は消えていない。・・・その不安を俺は取り除いてあげたい。



だから、俺は告げる。



「・・・舞、俺はお前のことを守りたい」



ずっと、笑顔でいれるように舞を守りたいんだ。



「もう、舞のことを悲しませたりなんかしない」



悲しみを心に抱えた舞を見るのはもう嫌なんだ。



「お前のことがどうしようもなく・・・」




















「好きなんだ」




















それが俺の答え。

偶然の再会の時から抱き続けてきた想いが今、伝えられる。


「ゆういち・・・私・・・」


舞の表情が明るいものへと変化していく。無表情という仮面が今、脱ぎ捨てられる。

彼女は笑顔だった。とびっきりの笑顔だった。


「・・・私、嬉しいよ」


優しく舞は抱きついてきた。

彼女は微かに震えていた。もしかしたら、泣いているのかもしれない。


だから、俺も彼女を包み込むようにそっと抱きしめる。




















月明かりが優しく俺たちを照らしていた。




























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