怖い



私は死ぬのが怖い。



でも、この運命に逆らうことは出来ない。



それならば、私はその運命と戦うまで。



その決意から七年という長い年月が流れていた。



私はまだ一人で戦い続けているよ。



助けて



私をこの暗闇から救い出して



祐一、私は待っているよ。



































伝わる想い 第十一話「再会」

Written by kio









月曜日の夜、俺は水瀬家でのんびりとテレビを見ていた。ちなみに今日は七瀬さんを含む美坂チーム(北川命名)が完成した日でもある。


「祐一、私のノート知らない」


名雪のいつもはゆっくりとしたしゃべり方が今は若干早い。そこから、少し焦っていることが見て取れた。でも、ノート・・・あれ、何のことだっけ?


「数学のノートだよ」


そう言えば、今日、この学校の授業についていくために名雪からノートを一通り借りて写していたんだっけな。でも、確かあれは・・・


「悪い、ノートは今、学校にある」


名雪から借りたはいいが、そのまま自分の机の中に入れっぱなしになっていた。


「・・・もしかしてまずいか?」


名雪の表情の僅かな変化を見て取り、俺は聞いた。・・・あの表情はまずいに決まっているがな。


「うーん、今日のところの復習をしたかったんだけど・・・別に大丈夫だよ」


名雪はどうやら毎日、予習復習をしっかりとやるタイプらしい。悪いことをしたな。


「よし、ちょっと学校に行って来る」


今は8時13分、走れば9時前には水瀬家に戻ってこれるだろう。


「えー、でももう遅いよ」

「大丈夫だ」


とだけ答えて、俺は防寒具を身に付ける。


「秋子さん、ちょっと外に出てきます」


「了承」


一秒でOKをだされた。この人は本当にいろんな意味で凄いと思う。

























「うー、寒い」


なんとか学校まで辿り着く。それにしても体の芯まで冷えるような寒さとはこのことだな。俺はぶるぶると震えながら学校の敷地へ侵入する。正門はどうやら年中開いているようなので、普通に入ることが出来た。


「さて、どうするかな」


学校という施設は以外に戸締りがしっかりしているため・・・


「って、玄関、開いてるし」


俺は少し呆れてしまった。普通の学校だったら教室の窓の鍵を閉め忘れたぐらいならありそうだが、玄関が堂々と開いてる学校なんて・・・


「大丈夫か?この学校」


不安を覚えるが、とりあえず、それによってノートは取りに行けるのだ。・・・どこか複雑な気持ちではあるが


学校の中に足を踏み入れると、


「そこは暗かった」


もっともこれで明るかったらそれはそれで問題だと思う。見たところ宿直の先生もいなそうだし。だから、その場合は空き巣みたいな奴が居るのだろうな、きっと。

























「とりあえず、ノートは見つかったし、帰るかな」


自分の席から持ってきた名雪のノートを片手に俺は呟く。余談だが、名雪のノートは外見は普通だが、中身には猫のシールなどが貼られている。


「それにしても・・・」


さっきから、気になることがある。今のもそうだが、どうも今日の俺は口数が多い。しかも、その全てが独り言である。普段の状態では考えられない。もちろん、暗くて怖いなどという感情は当の昔に自然消滅しているから、そんな理由ではない。だとすると・・・


「手紙か・・・」


俺は近い将来、誰かから手紙を預かることになるのだろう。もちろん、一般的な意味の手紙ではない。死にゆく者からの手紙である。そして、手紙を預かるということは悲しい出来事が起きることが約束されているも同然であった。そのため、俺は自然に自己防衛反応として口数が多くなることがある。これはさすがに自身でも自覚していない癖だったが、ある知り合いに指摘されて知った。・・・だが、今はその癖でないことを祈りたかった。何しろ、俺はもう既に手紙を預かる相手を一人見つけてしまったのだから。だから、これ以上は・・・


ふと、気付く。人の気配がする。

目の前の廊下に月の光が漏れている。そして、そこには一人の女性の姿が浮かび上がっていた。月の光に反射してその女性の黒髪と手に持っている銀色の何かが冷たく、美しく輝く。

そして、俺の目はしっかりとその女性を捕らえた。そこに居たのは西洋刀を手にした長身の女性だった。


心臓がドクンと高鳴る。


「・・・もしかして・・・」


その容貌には見覚えがあった。忘れもしない七年前、全てが始まったあの時、


「・・・舞、なのか・・・」


ある一つの約束をして、別れ離れになった女の子が居た。俺の記憶と勘に間違えが無ければ、彼女がその女の子であるはずだ。

そして、彼女は俺の言葉を肯定するかのように首をコクンと縦に振る。


「・・・祐一・・・ずっと、私は待っていた」


彼女の声を聞いていると俺は切ない気持ちになる。

舞はゆっくりと待っていた年月をかみ締めるかのように俺の方に近づいてくる。


「・・・祐一・・・」


彼女は泣いていた。

我慢できず、彼女は俺の胸に飛び込んでくる。たまらなくいとおしく、大切な存在。それが舞と言う女の子、いや、女性だった。

頭をやさしく撫でてやる。昔、俺がそうしたように。


「私、わたし、・・・」


舞は何かを言おうとしていたが、俺はその言葉を遮る。彼女に言わなければいけないことがあるから。


「舞、ただいま」


俺は出来る限りの笑顔で彼女を見つめる。そして、涙を流しながら彼女は顔をあげ、


「おかえり、祐一」


あの頃と変わらない笑顔で舞は俺を迎えてくれた。

























だが、これが悲しい物語の序章に過ぎないことを俺はまだ知らない・・・














































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