嘘だよね
死んじゃったなんて
また、私をからかってるだけだよね
騙されないよ、もう
あなたの嘘なんかお見通しなんだから
いつもの様に朝、起こしに行けば
いつもの様にかわいい寝顔で寝てるよね
それで、いつもみたいに遅刻寸前で学校に行くんだよね
・・・ねえ、嘘だよね
嘘だよね
お願い
嘘だって言ってよ
私、どうすればいいの?
ねえ、答えてよ
浩平
伝わる想い 第八話「幼馴染」
Written by kio
「ふぅ、・・・ここか」
相沢祐一は電車から降り、駅の向こうの景色を眺める。
比較的どこにでもありそうな普通の町、それが彼の第一印象だった。
「はぁ、それにしても何やってんだか・・・」
祐一は少しため息をついて、近くのベンチに腰を下ろす。吐く息が白かった。季節は冬、新しい年を迎えてそれほどは経っていない。加えて、まだ日が昇りきっていない時間帯に彼はそこにいた。
(・・・俺、明日引越しなのに、こんなとこに居てもいいのか?)
答えは分かっていたが、つい、心の中で自問してしまう。ちなみに彼の引越し先は自宅を挟んで、現在いる場所とは正反対の方向に位置している。
(まぁ、とりあえず行きますか)
祐一はゆっくりと立ち上がり、ある場所を目指して歩き出した。・・・だが、彼の足取りは心なしか重い。
「浩平、朝なんだよ、遅刻するんだよ」
そう言って、彼女は目の前にある白い毛布を引き剥がす。
バッ
ドン
いつも感覚で力一杯引っ張ったせいか、彼女はお尻から床に倒れてしまう。
目の前に映る無人のベット。彼女が浩平と呼んだ人物はそこにはいなかった。
しばし呆然とする。だが、それも少しのこと。
「・・・浩平、また私を脅かそうとしてるんだね・・・いいよ、探してやるもん」
彼女は子供のようにそう呟くと寝室から出て行く。
ドタドタ、家の中を慌ただしい音が走る。
数分後、彼女はまたこの寝室へともどってきた。その顔は憔悴しきっていて、何かに恐れているようにも見える。
彼女の瞳はただベットだけを見つめて、そして虚ろだった。
「・・・そ、そうだよ、浩平はきっとこのベットの下にいるんだよ。そうに決まっているよ」
切望。彼女の言葉はまさにそれだった。だが・・・
ベットの下はおろか、クローゼット、机の下など、人が隠れることが出来そうな場所を全て探しても彼は見つからなかった。
・・・・
「・・・私、バカなのかな・・・」
ポツリと漏れる言葉。
「今日は学校ないのにね」
自嘲気味に少し苦笑いをして彼女は言う。
「家中探し回っちゃったな・・・」
彼女の頬を涙がつたる。
「・・・浩平はあの日、死んじゃったんだよ」
自分に言い聞かせるような口調。
「あの日、事故に会っちゃったんだよ」
あまりにも現実味を感じない出来事。
「結局、クリスマス会もお別れ会もなかったんだよ」
ただ、あったのは彼との別れの儀式だけ。
「・・・でもね、私はまだ、認められないんだよ」
強くなる口調。
「浩平が死んだなんて、認められるはずがないよ」
堰を切ったように溢れ出す涙と嗚咽。
「・・・浩平・・・」
弱々しい、消えてなくなりそうな彼女の呟き。
「長森」
自分を呼ぶ声が聞こえた。
「え?こうへい?」
彼女は自分の泣き顔も忘れて振り返る。
彼はいつも彼女のことを苗字で呼んでいた。
そして、その名で自分は呼ばれた。・・・彼女は一瞬、幻聴かと自分の耳を疑ったが、その声は確かに聞こえる。
「・・・長森、瑞佳さんですね?」
そこにいたのは彼女の望む彼ではなかった。
いつ間にか扉の向こうには見慣れない男の人が自分を見つめて立っていた。
「折原浩平の幼馴染の長森瑞佳さんですね?」
その男性の二度目の質問に彼女は小さく頷いた。
これが彼女と彼、相沢祐一との出会いだった。
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