伝わる想い 第二話「食堂」
Written by kio
「おはよう、相沢くん」
朝の教室。
名雪と全力疾走してきた俺に七瀬さんが話し掛けてくる。
「はぁ、はぁ、ぁ、おはよう、七瀬さん」
息を整えあいさつを返す。
「昨日はありがとう、届けてくれて」
彼女の自然な笑顔が俺に全てを告げていた。
(そうか・・・良かったな七瀬さん)
本当に良かったと思う。だから、
「どういたしまして」
俺の言葉と同時に担任が教室に入ってくる。
「(ねぇ、祐一。昨日七瀬さんと何かあったの)」
「(秘密だ)」
名雪がひそひそと話し掛けてくる。だけど、これは
そうこれは俺と七瀬さん、そして折原浩平だけの秘密。
「祐一、お昼だよ」
「ん、そうか。ところで飯はどうするんだ」
名雪がわざわざお昼であることを伝えてくれる。ちなみに弁当は持ってきていないはずである。となると売店か食堂のどちらかの選択となる。もっとも俺はこの学校に売店や食堂があるのか知らないが。
「それじゃ、食堂に行こう」
食堂があるらしい。
「私も一緒に行くわ」
香里がそれに賛同する。
「よし、俺も付き合うぞ」
北川も加わるらしい。
食堂か・・・彼女も誘ってみるか。
「七瀬さん、一緒に食堂に行かないか」
俺は席に着いたまま何やら考え事をしていた七瀬さんに話し掛ける。たぶん昼食をどうしようか考えていたのだろう。
「え?・・・いいの」
彼女は名雪たちの方をチラッと見て言う。
「うん、いいよ」
俺の代わりに名雪が答える。
「食事は大勢で食べた方がおいしいからね」
こうして七瀬さんも加わることになった。
「美坂チーム出動」
北川が言う。何故に美坂チーム?
食堂に着き、この込み入り具合に驚かされる。そういうわけで、効率化のため自動的に俺と北川の男性陣が食券係、女性陣が席とりという形になった。
「名雪は何を食べるんだ?」
俺は尋ねる。
「Aランチ」
「名雪、あなたいつもAランチよね」
「うん、イチゴのムースが美味しいんだよ」
そういえば名雪は朝食もイチゴのジャムをつけて食べていたっけ。
「香里と七瀬さんは」
「私は日替わり定食をお願い」
香里、無難なものを食べるんだな。
「私はうーん・・・」
七瀬さんはメニューとにらめっこして悩んでいた。
「Aランチが良いよ」
名雪、お前イチゴのムースを取り上げようとしているだろう。
「・・・それじゃ、Aランチをお願いします」
「了解」
俺はそう告げて北川と一緒に学生たちの群れの中に突っ込んでいった。
3分後
北川にこの食堂での生き残り方を伝授してもらい。無事、全員分の食事を持ってくることに成功した。
「はいよ」
俺は器用にAランチ2つと自分用のカツカレーを持って、テーブルの上に置いた。
「すごいな、相沢」
北川が感嘆の声をあげる。うむ、前の学校でこの技をマスターした甲斐があったな。
「祐一、ありがとう」
「相沢くん、ありがとうね」
名雪と七瀬さんが礼を言う。
「北川君、ありがとう」
「おお」
香里の食事は北川が持ってきていた。
「ところで相沢君と七瀬さんって仲が良いわよね」
香里が突然俺に尋ねてくる。
「ああ、転校生同士だからな」
まぁ、無難なところだろう。
「もしかして同じ学校だったの」
「いや、そんなことはないぞ」
ただ、少しだけ面識があるだけだ。七瀬さんはこれからどんどん友達が増えていくのだろう。・・・悲しみを乗り越えてな。
「いっちご、いっちご、いっちごのむーす」
何やら名雪が怪しげな歌を歌いながらイチゴのムースを食べている。あとで聞いた話だが名雪がこのペースで食事をするのは脅威らしい。確かに朝食、食うの遅いからな名雪は。
「あ、本当においしいわこのイチゴのムース」
七瀬さんもムースを食べていた。
「あっ」
今の声は名雪の声。名雪、お前七瀬さんのイチゴのムースを取るために早く食っていたんだな。
「え?」
何か悪いことをしてしまったのか、という顔で七瀬さんは言う。
「気にしないで良いわよ」
呆れた調子で香里が言った。
「それじゃ、教室にもどるか」
皆が食べ終わったのを見計らって俺が言う。
「あ、私は部室によってからもどるわ」
「分かったよ〜」
香里は部室に行ってから教室にもどるらしい・・・ところで何部なんだ。
「あの、相沢くん、ちょっと良いかしら」
七瀬さんが俺に遠慮がちに言う。
「ああ・・・分かった。名雪と北川は先に教室にもどっててくれるか」
土曜日のことだろうな。
「おう、分かった」
俺の返事に名雪は目を細めて俺と七瀬さんを見ていたが気にしないことにした。
屋上への厚い扉を開ける。
冬の屋上。正直に言って、非常に寒い。思わず身震いする。
ところで何故この屋上は鍵が掛かっていないんだ?普通は事故とかを防止するために鍵は掛けておくものなのだが。
それはさておき彼女に話を切り出す。
「・・・七瀬さん、俺に聞きたいことがあるんじゃないか」
「う、うん」
俺は彼女に手紙を渡した。でもその差出人は既にこの世の人ではない。有り得ない手紙なのである。
「でもそんなことはどうでもいいの」
「え?」
思いもよらない七瀬さんの言葉に俺は思わず聞き返す。
「あれは確かに折原からの手紙だった。私にはその事実だけで十分なの。だから相沢くんにはもう一度きちんとお礼が言いたくて」
「・・・そうか」
その事実だけで十分か・・・折原浩平、良い彼女を持ったな。
「本当にありがとうね」
「おお」
そう言った彼女の笑顔があまりにも眩しくて、俺は少しぶっきらぼうなもの言いになってしまった。
「・・・相沢くんって、少し折原に似ているかもね」
七瀬さんは何かを小さく呟いたが俺には聞こえなかった。
「今日はクッキーを作ってきたの、どうかしら」
「わー、七瀬さんおいしいよ」
「かわいいくまさんね」
「ありがとう」
満面の笑みを七瀬さんはうかべていた。
七瀬留美編 終
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