2人の女性が暗闇の中を駆ける。




無機質な片開きの扉の前で2人は足を止める。


「…ここに奴がいる…」


暗闇の中でもなお、光を放つ金髪を持つ女性が独り言のように呟く。


「どうやらお互い目的は違えど、過程は同じようですね」


隣にいた物静かな女性が彼女とは目を合わせずに言う。


「そんなことはどうでもいいわ。…ただ、私の邪魔をしたら殺す。いいわね」

「ええ、分かっています」


金髪の女性、沢渡真琴は扉に手をかける。

そして、扉は……


「……誰?」


開くことはなかった。


「まったく無用心な学校ですね。つくづく、今日はそれを実感しました」


真琴の腕は突如現れた男により、掴まれていた。


「……誰?」


真琴は全く表情を変えることなく、目の前の男に先ほどの質問を繰り返す。

男はあいていたもう片方の手で一度眼鏡を正して、告げる。


「姓は久瀬、この学校の生徒会長をしています。 …初めまして、部外者さん」


暗闇により彼の表情は伺うことは出来なかった。




































「祐一の彼女さん その6」

Written by kio










「ここは一応、学校という施設なので部外者の方は出て行ってもらえませんでしょうか?」


久瀬は物静かに真琴へと語りかける。


「嫌だと言ったら?」


いつものように涼しい口調で真琴は言う。


「それでも出て行ってもらいます」


対して、久瀬も似たような口調で答える。


「そう、なら……」


真琴の右手が蒼の光を放ち始める。


「消えなさい!!」


神速の一撃。真琴の右手が久瀬のいた空間を切り裂く。

だが、拳は標的を捉えることはなかった。彼は一瞬早く、その場から立ち去っていた。


「やれやれ、手荒なことはしたくないのですがね」


久瀬は先ほどと全く変わらない様子で、真琴の前10歩半程の距離のところに存在していた。


「……目障りよ!!」


真琴の右手を中心として蒼の空間が広まっていく。

そして、一瞬で全てが蒼に包まれた。


「消えなさい」


静かな口調、それと同時に蒼が久瀬の位置に凝縮する。

そして、蒼は久瀬を喰らいつくした。

やがて、蒼が消え、空間は闇の色を取り戻す。


「……どうやら、あなたは危険因子となりそうですね」

「…!?」


蒼と共に消滅したと思われた久瀬は、やはり先ほどと全く変わらない様子で真琴の真後ろにいた。


「驚きですか? 私の『力』は黒、闇を司っています。あなたでは私を捕らえることは出来ませんよ」


真琴の拳撃が久瀬がいるであろう背後へと叩き込まれる。だが、そこには蒼い残像が残るだけで、彼の姿はない。


「たとえ、運命の右翼のあなたでも私を殺すことは出来ません」


蒼い光が線を描く。それは三日月のような曲線を見るものに思い起こさせる線。それが久瀬を切り裂く。


「…繰り返しましょう。あなたでは私を殺すことは出来ません」

「………」


無言で真琴は蒼を開放する。

再び空間が蒼に染まっていく。

だが、今度は久瀬も同時に動いていた。そして、全ての行動は彼女よりも遥かに早かった。


「あなたの魂、狩らせていただきます」


空間は闇ただ一色へと変貌を遂げる。




















「……久瀬会長」


全てが終わったところでもう一人の女性が口を開く。


「なんですか? 天野美汐君」


久瀬の視線はただ中空だけを見つめている。


「あなたは扉の先に何があるのかご存知なのですか?」

「ええ、恐らくはここにいる誰よりも詳しいと思いますが」

「なら、何故、私たちが扉を開こうとするのを邪魔するのです!」


美汐の言葉が少し熱を持ち始める。これは彼女にしては珍しいことだった。


「あなたよりも詳しいと先ほど述べましたが?」


久瀬は自分の冷静さを一度も失わせることなく、それに答える。


「あなたに『夜』の存在を教えてまだ2週間余りです。なのに何故、あなたにそんなことが言えるのですか?」


再度の質問。

美汐の脳裏に久瀬との生徒会室でのやり取りが詳細によみがえる。


「時が流れました。それは人に知識を与えるのには十分な時間です」


久瀬は一度言葉を切り、美汐に視線をやる。


「美汐君、君の行動には目を瞑りますが、こちらの方は危険性を知っておいて無視するわけにはいきません」


彼の目は感情の一欠けらも感じさせることはないほど、冷たく無機質だった。

美汐は鳥肌がたつのを感じたが、無視した。


「殺したのですか?」


目の前の床に横たわる女性を見やり、美汐は言う。


「場合によっては殺していたかもしれません」


彼も真琴を見やり、言葉を続ける。


「ですが、私は殺人は好みではありませんから。……ただ、記憶を消しただけです」

「記憶を消しても、彼女はこの場所に戻ってくるかもしれませんよ」

「そうですね、彼女は確実に戻ってくることでしょう。ただ、今はまだ時期ではない」

「つまりあなたは『鍵』が現れるまで待つ、と」


久瀬と美汐だからこそ成り立つ会話がそこにあった。


「………」


久瀬は答えない。だが、ただ一言。


「朝が来ます。闇の時間は終わりです」


そして、闇が明けていく。

























あとがき
一応は偶数話は「夜サイド」ですので。気付いた人は気付いたかと思いますが、これは比較的過去の話しです。
なお、本編はもう少し待っていただきたいと思います(でも、「祐一の彼女さん」だけで頑張れば終わらせれるかも)









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