「祐一の彼女さん その5」

Written by kio










名雪と秋子さんが『旅に出ます』という謎の書置きを残して、水瀬家を出てから、早1週間になろうとしていた。

正直に言って、そろそろ不安を感じる。第一に連絡が全く無いというのはどういうことなのだろうか? 彼女たちの身に何かあったのかもしれないと嫌でも想像してしまう。

ついでに言うと名雪の出席日数もそろそろ危険な気がする。学校にはいつも遅刻寸前、もしくは遅刻してくる生徒が一週間も休むと言うことは進級ができるかと言う問題に深刻に関係する。

今までは秋子さんだから大丈夫だろうという根拠の無い理由にすがって考えないようにしていた。だが、本当は警察にでも連絡をした方が良いのかもしれない。

・・・とシリアスな問題と思っていたのは昨日までのこと、何故か名雪と秋子さんから絵葉書が届き、2人の無事を確認することが出来た。その絵葉書のことを事細かに述べると、なんと言うかむかつくので詳しくは言わない。ただ、2人は温泉につかって毎日を過ごしているらしい。正直、全ての感情を通り越して呆れた。本当に呆れた。

今、この水瀬家には俺しか・・・いや、もう一人の居候と俺しかいない。つまり生活に関わることは全部自分でやらなければならないということだ。もちろん、食事だって必然的に自分で作ることになる。

と言うわけで、俺はさっきから台所で朝食を作成中だったりする。


「ふぅ、まあこんなもんかな」


とても和食チックな食事を二人前作って、俺は呟く。ちなみに献立は鮭の塩焼き、ジャガイモとたまねぎの味噌汁、伝家の宝刀味のり、切干大根である。我ながら中々の出来だと思う。


カタッ


扉が閉まる音が微かにした。後ろを振り向くともう一人の居候の女性がいた。


「よう、真琴、おはよう」


あくまでもフレンドリーに俺はあいさつをする。


「・・・おはよう」


俺とは反対に真琴は愛想が悪かった。その様子を見ると、初めて彼女と会ったときのことをとても想像は出来ない。


「いや、あれはかなり危険だったよな・・・」


思わず独り言をしてしまう。何しろ本当に殺されるかと思ったぐらいだ。

そんなことを俺が考えている間に真琴は早々と朝食に取り掛かっていた。


「え、ええと、うまいか?」


黙々と彼女は食べているのでいまいち、おいしいかどうかが伝わってこない。

真琴は小さく口を開いて一言、


「普通」


うわぁ、可愛くないぞ。しかも何気に傷ついたのですが・・・。

真琴は箸を休めて俺を見る。


「食べないの?」


「あ、ああ、食べるぞ、もちろん」


どうも納得がいかないところがあったような気もするが、朝食に取り掛かることにする。まずは味噌汁を一口・・・うん、美味い。


「ところで真琴、秋子さんたちがどこに行ったか知ってるか?」


温泉にいることは分かるが、はっきりとした場所までは不明だった。


「知らない」


即答。

自分は全く関心が無いと言わんばかりだった。実際にそうなのかもしれないが。


「え、ええと真琴はこれからどうするんだ?」


真琴と会話をすると妙にペースを乱されるが、無言で食べるのも嫌だったので話題を振ってみる。


「バイト」


・・・・。

想像以上の会話の繋がり難さに悪戦苦闘しながらも、俺は更なる話題を振ってみることにした。


「でも今日、日曜日だぞ。確かお前は土日は休みじゃなかったっけ?」


「急に休みを取った人がいたから、そのヘルプよ」


よし、好感触。


「ふーん、お前も大変だな」


少し淡白に返してみる。


「・・・ごちそうさま」


真琴は既に朝食を平らげていたようだ。

食器を台所に持っていって、真琴は居間から出て行った。


「・・・ふむ、関係に改善の余地あり、と」


同居人たる者、友好関係は重要だからな。次はもっと真琴と会話をすることを硬く心に誓う俺だった。















ピンポーン


玄関からチャイムの音が聞こえる。


「はいよ、すこし待ってください〜」


俺は食器を洗うのを一時中断して、玄関へと向かう。


「どうも、お待たせしました」


ガッチャッ


急いでドアを開ける。


「やっほー、祐一」


ガチャッ


開けたときよりも速い速度でドアを閉める。


・・・・


ふう、今日も良い天気だな。


「さあ、洗い物の続きをしないと」


どこか発言が主夫じみている俺だった。


「ま、待ってよ〜 何事も無かったかのように無視しないで〜」


ドア越しに喚く女性の声が聞こえてきた。


「朝から近所迷惑だぞ」


仕方なくドアを開けて、彼女に言う。


「ヒドイッスヨ、祐一サン」


「言葉づかいが変、加えて何故片言?」


「だって〜、祐一が意地悪するから」


突然の訪問者は俺の彼女だった。


「まぁ、上がれよ」


「お邪魔します」


そう言いながら彼女は動きを止めた。

ふと後ろを向くと真琴が俺たちを眺めていた。


「誰?」


真琴の質問は実に簡潔だった。


「あ、ご家族の方ですね。私、祐一さんと交際させていただいてる川澄舞と申します。不束者ですが、よろしくお願いします」


舞さん、その挨拶何か違うよ。


「・・・今日はやけにテンションが高いな、舞」

「うん、徹夜だから」


確かに、よく見ると彼女の顔には微かにくまが出来ているような気がする。


「徹夜?」


「佐祐理と同じ大学に行くために努力してるんですよ、私」


一応舞は受験生です。


「そうか、頑張れよ」


「うん」


いつものほのぼのとした舞とのやり取り。何となくホッとするなぁ。

でも・・・何かを忘れているような気がする。


「・・・どうでも良いけど、どいてくれないかしら」


・・・すみませんでした、真琴さん、忘れていました。


「あ、すみません」


舞も忘れていたらしい。そそくさと彼女は玄関から上がり、道をあける。

うむ、これからはあまり2人だけの世界に行かないようにしなくては。


「とりあえず、バイト頑張れよ」


真琴に激励の言葉を送ってみる。


「・・・・」


何も言わず真琴は玄関から出て行った。


やはり真琴とコミュニケーションをとるのは難しい、難題である。


「ねえ、祐一」


俺が真琴とのコミュニケーション云々について考えていると、舞が俺を肘で小突いてきた。


「なんだ?」


「あの人って、祐一のお妹さん?」


「言葉が変じゃないか?」


おいもうとさんはいくらなんでも言わないと思うんだが。


「それじゃ、お姉さんかな」


とりあえず俺の意見は無視されたらしい。


「いや、なんと言うか真琴は妹でも姉でもないぞ。・・・ついでに言っておくが兄でも弟でもないからな」


何となくそのやりとりが想像されたので先に言っておく。


「!! もしやセカンド彼女さんなの!?」


「セカンド彼女さんってなんだよ・・・」


半ば呆れて訊ねる。


「そ、そうなんだ、私とは遊びだったのね」


聞いてないよこの人。


「はぁ・・・あいつは居候、それ以上でもそれ以下でもないよ」


別にやましい関係でもなんでもない。ただの居候同士という珍しい関係ではあるが。


「居候兼彼女!? ・・・そんな・・・」


「いいからそこから離れろ!!」


何か舞の新しい面を見つけてしまったような気がする。


「冗談だよ〜 ちなみに名雪ちゃんの真似だよ。どう、似てる?」


「はいはい、本人かと思ったぞ」


思いっきり棒読みで答えてやる。

確かにものまね事態は似ていたが、俺は今日の舞のテンションに疲れてしまっていた。


「うん、頑張ったからね」


「無駄なことを頑張ってる奴だな」


我が彼女ながら非常に呆れてしまう。


「祐一はいじわるだ、いじわるだ」


「リピートするな。うるさい」


こんなときどっちが年上なのか本当に分からなくなる。

まぁ、考えようによってはそれほど俺に自分をさらけ出してくれているという点で喜ぶべきことなのかもしれないが。


「それで何の用なんだ?」


やっと本題に入る。


「デートしよ」


意気揚揚と舞は言う。それよりも睡眠をとったほうが言いと思うぞ。明らかにいつもの舞じゃないし。


「・・・断ったら?」


「やっぱり、私たちの仲はもうおしまいなのね」


顔を抑えて舞はしゃがみこんでしまう。なまじ冗談に見えないところが怖い。


「・・・分かったよ、付き合うよ」


こうなった舞はてこでも動かないことは知っていたので、デートをすることにする。


「ありがとう、祐一。エスコートしてね」


彼女はパッと明るい表情を見せ、俺を見上げて微笑む。まぁ、嘘泣きだということは分かっていたのだがな。・・・恥ずかしいけど、これが惚れた弱みと言うやつなのだろう。



そんなこんなで舞とデートをすることになった俺。はたして、どうなることやら。

期待と不安(主に今日の舞のテンションによる)が入り混じったデートが始まろうとしていた。










次回『祐一の彼女さん』その6 舞デート後編に続く


























あとがき
『祐一の彼女さん』シリーズ初の前後編です。続きはいつになるか分かりませんが、ゆっくりとお待ちいただければ幸いです。









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