朝起きると、何故か水瀬家のテーブルの上に


『旅に出ます。 秋子&名雪』


という書置きが残されたいた。


「・・・・」


とりあえず俺は既に支度されていた朝食を胃に流し込むと鞄を持って水瀬家を出た。

時間は名雪と登校しているときよりも、30分ほど早かった。もちろん、歩いて登校である。


「ああ、ゆっくりと登校・・・最高だな」


俺は水瀬親子のことを放置して、感動の余韻に浸りながら通学路を歩いていた。

すると、後ろから誰かが近づいてくる。


「祐一様、お久しぶりです」


そう言って、彼女は深々と俺に頭を下げた。祐一様?少し疑問を覚えたが、とりあえず返事を返す。


「おお、元気だったか?」

「はい、これも祐一様のおかげです」


いきなり、彼女は土下座をした。


「・・・やめてくれ」


周りを通る人々の視線が痛い。


「ご命令とあらば」

「いや、なんと言うか・・・」


お前、本当は何者?凄く疑問だった。


「・・・とりあえず、命令でも何でもいいから頭を上げてくれ」


仕方ないので俺がそう言うと


「了解しました。・・・祐一様、一生ついていきます」


と言って、何故か彼女は頬を赤に染めた。




















俺は思った。また変なやつが増えたなあ、と。































「祐一の彼女さん その3」

Written by kio










今朝、偶然出会った少女の名前は美坂栞、信じられないがあの美坂香里の妹だ。なんというか外見から中身まであらゆる意味で違う。特に今は中身にそれが謙虚に現れている。


「祐一様、今日のご予定は?」



何故か時代劇風である。ちなみに栞は俺の教室に居る。まだ、早い時間だから教室内にはそれほど人はいない。・・・さっきは栞のあまりの変貌振りに気をとられて気がつかなかったが、姉の香里も一緒に登校して来たらしい。


「なあ、栞、何でお前、そんなしゃべり方なんだ?」


さっきから、凄い疑問に思っていたことを尋ねる。俺が数日前に彼女と出会ったときは普通のしゃべり方だったような気がするが。


「昔からでございます」

「嘘だろ?」


そんなことは分かりきっていた。


「嘘ではございません」


何故か頑なに否定する栞を前に、俺はすがるように隣の席で傍観を決め込んでいた香里に助けを求めた。


「・・・私に妹なんかいないわ」


おい、美坂姉、現実逃避かよ。


「姉上、それはどういう意味でしょうか?」


いや、栞のその様子を見れば現実逃避したくなるのも分からなく無いがな。


「言葉どおりよ」


あくまでもクールに香里は言う。男だったらハードボイルドだ。


「・・・かくなるうえは我が腹を切って、詫びを・・・」

「じょ、冗談よ、栞。だから、そんな物騒なものはしまって」


慌てて、香里が栞を止める。何処から持ってきたのか栞は小太刀を右手に抱えていた。・・・なんと言うか突っ込みどころがあり過ぎて、突っ込めなかった。


「では、許してもらえるのですか?姉上」

「ええ、だからもうそんなことはしないで」


本気で泣いて、香里は言う。微妙に美しい姉妹愛だ。・・・ところで、許す許さないの話はどこから出てきたんだ?


「で、話は戻るけど、いつからお前はそんなしゃべり方をするようになったんだ?」


とりあえず、話を戻す。なんと言うかこんなところで香里に泣かれても仕方がないからな。


「昔からでございます」

「嘘だろ?・・・って永久ループかよ」

「相沢くん、私が説明するわ」


意外と早く、復活した香里が言う。


「おう、頼む」


栞では話にならないので香里の話を聞くことにした。


「実はね」

「ああ」

「栞は時代劇にはまったの」

「はぁ?」

「これが全てよ」


みじかっ!もう少し何か説明があるだろ、普通。


「もう少し詳しく頼む」


気を取り直して聞いてみる。


「分かったわ。・・・あの日、栞の誕生日、栞が家に帰ってくると時代劇が入っていたのよ。しかも特番、3時間で。そのせいで栞のいつも見ていた恋愛ドラマは潰れたわ。その腹いせに栞はその時代劇を見たわ。それもかじりつくように。コマーシャルですら、あの子はテレビから視線を逸らさなかったわ。端から見ていて、怖いぐらいに。それほど腹が立っていたのね。・・・そして、番組が終わると栞はあの口調になっていたわ」

「訳が分からん」


本当にそう思う。それ以前にあの日は栞が『私、笑っていましたか』とか『祐一さんに会えて良かったです』とか何とか、感動的な最後の別れをしていたような気がするのだが。


「・・・病気も治ったわ」

「それこそ、分からんわ!!」


思わず突っ込む。


「相沢くん、怒ると身体に良くないわよ」


香里を殴りたくなってきた。


「脈絡が無さすぎだろ」

「実はね、あの時代劇で何故か人間のつぼを圧して病気を治すシーンがあったの。それであの子、試しにやってたわ。そして、360秒後・・・病気が治ったわ」


やばい、何から突っ込めばいいんだ。360秒か?時間を計っていることか?素直に6分と言えか?早すぎるか?・・・いやそれよりも


「・・・待て、あいつは不治の病じゃなかったのか?」

「でも、治ったのよ」


頭が痛くなった。・・・こいつら絶対おかしいって。


「奇跡ってあるのね」


感慨深げに香里は言う。


「つーか、栞は俺のおかげで病気が治ったとか言っていたぞ」

「ああ、それね」

「実はね、つぼを圧す俳優があなた、そっくりだったのよ」


俺、関係ないじゃん!


「悪いが、付き合いきれん、んじゃな」


俺は学校に来て間もないが、帰宅することにした。


「待ってくだされ、祐一様」


どうでもいいが、ところどころ栞の言葉づかいが微妙だ。


「拙者もお付き合いいたします」

「お前は家に帰って寝ていろ」


絶対にそれがいいと思う。


「そんなことをおっしゃる祐一様は嫌いでござる」


うぉっ、あのセリフも時代劇語(?)になっている。俺は少し感心した。でも、やっぱり言葉づかいが色々な意味で変だ。


「栞」

「なんでござる」

「手紙を預かっています」


バシッ


見るといつ間にか香里がハリセンで俺の頭を叩いていた。実は密かに香里がさっきからハリセンを作っていたことには気付いていた。


「何をする」


「そのネタは禁止。いいわね」


「・・・はい」


俺は素直に頷いた。


キーンコーン、カーンコーン


なんだかんだでチャイムが鳴り、ホームルームが始まる。結局、帰ることは出来なかった。何となく隣を見ると黒髪の美少女が俺の方を見て微笑んでいた。


「って、何で名雪の席にお前が居るんだ」

「えへへ」


いつの間に現れたのかそこには俺の彼女、川澄舞がいた。ちなみにこの人は3年生です。


「・・・祐一様」


俺の後ろから女性の声がする。後ろは北川のはずだが。振り向くと、何故か北川の席に栞が普通に存在していた。

・・・もう、いいよ、ついていけないよ。俺はこの微妙な悪夢を忘れるために眠りにつこうとした。


ビシッ


「祐一、居眠りはいけないよ」


舞のチョップに妨げられた。


「ゆ、祐一様に手をあげるなんて・・・」


何故か栞は怒髪天だった。

・・・頼むから、石橋先生、この人たちに何か言ってください。俺の願いは敵わず、挙句の果てに出席を取るときに「川澄」とか「美坂妹」とか石橋が言って、出席を取っていた。



そして、今日も一日が始まる。

























あとがき

「祐一の彼女さん」は短編です。連作ですが。長編との違いは話が一話ごとにとんでいるということが挙げられます。・・・どうでもいいんですがね。
それにしても今回の話、思いっきりバカな話です。「伝わる想い」の長森編でつまったことへのはらいせみたいなものです。・・・栞のキャラは賛否両論ありそうですね。このシリーズ、極端に本編とキャラが違う人がたまに出てきます。大抵は変わらない性格なんですが。佐祐理さんはどうなるでしょうね。ちなみに、個人的にこのシリーズで好きなキャラは舞と久瀬ですね。

さて、次回はどうなることやら。とりあえずまだまだ続きます。









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