「ふむ・・・興味深い」


パイプイスに深く腰をかけながら、彼は一枚の写真を見て、感想を言う。

その写真は暗闇の中で撮られたものらしく、一面が黒に塗りつぶされていた。加えて、画像自体もあまり質は良くなく、何が写っているのかも判別がつかない状況だった。それでも彼は何かに気付いていた。


「これはどこで撮ったものかね?」


彼は疑問を目の前にいる人物に向ける。


「・・・この学校の一階廊下です」


彼女はそう答える。


「ほう」


写真は鮮明ではないものの確かに何かの存在を捉えていた。闇よりも黒い何かを。それも夜、この学校でだ。


「ところで君は何故そんな時間に学校に居たのかね?」

「・・・・」


彼女は目を伏せ答えようとはしない。


「ふむ、まぁ、詮索はしないでおこう」


彼女にも何かしらの理由があるのだろう。だが、それよりも問題なのは・・・


「学校の管理体制を見直す必要があるな・・・」


彼はそう言って席を立つ。もちろんこの学校の最高権力者に抗議をするために。




















彼はこの学校の生徒会の最高権力者であった。































「祐一の彼女さん その2」

Written by kio










「やっほー、祐一」

「よう、舞」


いつものように舞は手を振りながら俺を迎えてくれる。


「今日は絶好のデート日和だね」

「・・・そうか?」


つくづく疑問だ。・・・いや、それも彼女の個性か、などと少し大人びた顔で遠くを見ていると


「え〜」


もの凄い不満そうな顔で舞はこちらを見ていた。


「・・・でもさ、普通はこんなところでデートはしないよな」


一般的なことを確認するように彼女に尋ねる。


「そうかな?」


彼女はさも不思議そうな顔で言った。


「だってさ、ここ学校だぜ、しかも深夜、近いし」

「えへへ、ドキドキ」


舞は笑顔でそう言う。なんか、舞がすっごくかわいい。


「え?祐一、照れるよ」


途端に舞の顔が真っ赤になる。・・・どうやら声に出していたらしい。


「舞・・・」

「祐一・・・」


・・・・2人は見つめ合う。そして、










ガッシャーン


窓ガラスの割れる音。


「ふぅ、現れたのか」


俺は少し不満だ。まぁ、お約束ってやつなんだろうが。


「そうだね」


先程までとはうってかわって真剣な顔つきになる俺たち。


「私は魔物を討つ者だから」


彼女はそう言うと音のした方向に疾風のように駆け出す。彼女の手には使い慣れた西洋刀。俺も持参した木刀を持って舞を追う。


さあ、戦いの始まりだ

























「はっ」


目には映らない『何か』に舞は剣を振り下ろす。


カキンッ


金属同士がぶつかり合うような音。だが、舞の剣は空中で静止していた。そこには確かに何かが存在していることが分かる。


俺も舞の傍に駆け寄ろうとする。


ブンッ


何かが俺の頭の上から迫って来た。俺は慌てずに必要最低限の動きでそれをかわす。

そして、反撃と言わんばかりに木刀を何かが居る場所へと振るう。

・・・木刀は空を切る。


(くっ、やはり駄目か)


舞はその何かが見えるようだが、俺には残念ながら何も見えない。そのため、いつも自分の勘だけで何かと戦っている。自分で言うのも何だが、俺の戦闘センスは他の人のそれを超越している。もちろん舞もだ。だから、俺は勘を用いて攻撃をかわし、舞はその何かと互角以上の戦いを繰り広げることが出来る。


何か、舞は『魔物』と呼んでいる存在。それと俺たちは毎夜戦っていた。詳しいことは省くが舞は昔から魔物と戦い続けていた。たった一人で。だが、俺たちは出会った。それは偶然か必然か、今となってはもう関係ない。俺は舞を大事に思っている。誰にも彼女を渡したくない。だから、もう一人では戦わせない。命に代えても俺が舞を守る。


戦いは続く。

























「はあっ、はあっ、はあっ」


俺と舞は既に体力は自らの限界に達していた。


「はあっ、・・・祐一」

「っ・・・な、なんだ舞」

「今日の魔物、何だか強いよ」

俺もそれは感じていた。いつも戦っている魔物は30分もあれば大概ケリをつけることが出来る。だが、今日のは違っていた。1時間を超えようとしている今でさえ、決着がつかない。あまつさえ、俺たちの方が圧されている。このままではまずいと本能が警笛を鳴らしていた。


「祐一、逃げて」


突然、舞が俺の傍で言う。


「何を言っている」

「私が隙を作るから」


つまり自分が犠牲になるから俺に逃げろということらしい。


「駄目だ」


それだけは絶対に許容出来ない。


「・・・祐一、たぶん、私達じゃ、今の魔物に勝てない。だから、祐一だけでも逃げて」

「そんなことが出来るか」


俺は舞を守ると決めた。


「お願い、祐一」


舞の悲痛な叫び。魔物が迫っていることを本能が伝える。そして、勝てないということを。


魔物が目前に迫る。

目には見えないものによる確実なる死が俺たちを襲う。


「舞っ」


俺は舞を庇うように、魔物の前に踊り出た。


(舞は俺が絶対に守る!)


そして、


「ゆういちっ!!」


舞の叫び声が聞こえた。










俺は死を覚悟した。

























いつまで経っても予想していた痛みがこない。

俺は恐る恐る、目を開ける。するとそこには恐怖に涙している舞と・・・俺の前に立ちふさがるように立っている一人の男が居た。

その長身の男は眼鏡を指先でずらしながら


「やれやれ、・・・まったく、この学校の管理体制は本当にずさんですね」


呆れたように男は言う。よく見ると彼は見慣れたこの学校の制服を着ている。


(誰だ?)


そんな疑問しか浮かばなかった。完全に俺は思考力を低下させていた。


「・・・君たちは下がっていなさい」


男はこちらには目を向けず、静かな口調で俺たちに言う。

事態を把握出来ないままに俺は男の言葉に従い、舞と共に後退する。・・・何故か、それが正しいことのように感じたから。


そして、男は魔物がいるであろう場所に、己の右手をかざして言う。


「あなたの魂、狩らせて頂きます」


一瞬で全ては終わった。
























男は後に己のことを久瀬と名乗る。

























あとがき

あれ?また短編です。昨日書いたばっかりなのに・・・しかも何か、連載っぽい雰囲気がします。伏線があったり、過去が明かされてなかったりとね。まぁ、気まぐれで短編は書きますので連載共々よろしくお願いします。









もどる?