「祐一の彼女さん」

Written by kio










朝、学校への通り道。

俺と名雪はいつものように全力疾走をしていた。


「名雪、あと何分だ」


切羽詰った俺の言葉を受けて名雪は絶望的なことを言う。


「100メートルを5秒で走れば間に合うよ〜」


・・・そんなの世界新記録もいいところだ。


「くそっ、名雪が早く起きてさえくれれば」

「う〜」


猫のような唸り声をあげても何にもならないぞ名雪。


「でもさ、祐一、大分慣れてきたよね」

「慣れたくないわ」


思わず怒鳴りたくなってくる、というか怒鳴った。

確かにこう毎日、全力疾走が続くと名雪と普通に会話をしながら走ることも出来るようになってくる。運動にはなるが、決して慣れたくないことであるのも事実。


「そうじゃなくて、学校だよ」


・・・そうだな、俺がこっちに転校してから早一ヶ月。友人ができ、授業中居眠りしても大丈夫な先生の見分け方が分かってきた今日この頃。ちなみに後者は自慢できないがな。

加えて、なんと言おうか、俺に彼女が出来た。これは俺の人生でも大きな出来事である。その彼女というのは・・・


「やっほー、祐一」


その彼女が何故か俺の隣を平走していた。


「あ、おはようございます」


名雪がよそよそしく彼女にあいさつした。何故か名雪はいつも彼女がいるとよそよそしいというか他人行儀と言うか。疑問に思ってそれを名雪に尋ねたら『鈍感』と言われてしまった。仕方がなく彼女にも同じことを聞いたら『鈍感だね』と言われた。・・・俺ってそんなに鈍感?まぁ、自問しても答えは出ないが。


「うすっ」


俺もいつも通り彼女に返す。


「祐一、朝はおはようだよ」


名雪に同じことを言われたことがあるぞ。


「つーか、お前も『やっほー』とか言ってただろ」

「あれ?そだっけ」

「そうだよ」


そんなやり取りしていると、俺たちはいつの間にか学校まで来ていた。


「わっ、びっくり」


名雪が全然びっくりしたようには聞こえない口調で言う。


「ホームルームの2分前だよ」


つまりは俺たちはぎりぎりだが、まだ遅刻はしていないと言うことだ。


「マジか?」

「うん、マジだよ」


名雪がまだ自分の腕時計から目を離さずに答える。


「奇跡ってあるんだね」


彼女の言葉に「ずいぶん安っぽい奇跡もあるものね」とどこかの級友のセリフが聞こえてきたような気がした。


「まぁ、ここでじっとしてても始まらないし行くか」

「わっ、一分経ってるよ」

「まずいね」


遅刻しては元も子もないと言うことで俺たちは各自の教室へと向かっていった。


「それじゃ、祐一、また昼休みにね」

「おう」


彼女といつもの約束をして俺は走った。

























と言うわけで唐突に昼休み。俺と彼女は屋上で昼食を摂っていた。


「祐一、美味しい?」


彼女が聞いてくる。なんと彼女は恋人同士になってから、俺に毎日手作り弁当を作ってくれている。・・・すごい幸せだった。ビバ、恋人。まぁ、北川あたりにでもそんなことを話せば「お前を社会的に抹殺する」とか言ってきそうだが。


「ねぇ、美味しい?」

「ああ、美味いぞ」

「えへへ〜」


彼女の照れたような顔が何とも・・・

そんなわけでいつものように2人きりの昼食はチャイムが鳴るまで続けられた。

























一方、その頃名雪は


「香里、あの子、殺してもいい?」


恐ろしい程平坦で冷たく、殺意の込められた名雪の言葉。

私はかつて親友にここまで恐怖を覚えたことはないと、後に香里は語る。


「な、名雪、落ち着きなさい」


香里は屋上へ行こうとする名雪を力づくで止める。


「カオリ、邪魔するの・・・」

「ひいいっ」


香里は名雪の虚ろに据わった瞳に思わず、悲鳴をあげた。


「殺してやるの、あいつを、私から祐一を奪ったあいつを」


名雪はくっくっくっくっくと暗い笑いを浮かべる。


もう手に負えないと判断した香里は


「北川くん、お願い」

「了解」


北川は名雪のみぞおちを狙って、拳を振るう。


ドスッ


「うにゅ〜」


ドサッ


謎のうめき声をあげて、名雪は地へ倒れる。


「ふぅ〜」

「ありがとう、北川くん」

「まぁ、いつものことだし」


北川は乾いた笑いを浮かべながら言う。

これは祐一に彼女ができてから毎日のように行なわれていた。

そう、これはクラスメートにとっては日常茶飯事にしか過ぎないのだが、当事者の知人にとっては・・・

「はぁっ」

香里の深いため息が全てを物語っていた。

























「祐一、迎えに来たよ」


彼女が教室の扉で手を振っていた。


「ぐはっ」

「大変ね、相沢くんも」

香里が極力祐一の方だけを見て、同情の言葉をかける。

何故、香里がそうしているのかと言うと、


「殺す、ころす、ころす、・・ろす、・・す」


と言う前の席の親友の姿を見たくないからだったりする。


「そ、それじゃ、行こうか」


祐一も名雪の異様な雰囲気を感じ取ってか、ただ彼女が来ていることが恥ずかしいのか、慌てて教室を出て行こうとする。


「あ、待ってよ」


そう言って、彼女もついていく。





祐一とその彼女が去り、


「彼女、美人よね」

「そうだな」


香里と北川は何となく彼女の感想を述べる。


「くっくっくっく


もちろん邪悪な笑いを浮かべている名雪から目をそらすために。

























「祐一、今日はどこに行こっか?」

「そうだな、・・・やっぱり、百花屋か」

「うん、それでいいよ」


祐一たちは定番のデートスポット百花屋に行くことになった。と言ってもほとんど毎日、2人は百花屋に行っているのだが。















百花屋にて


「何がいい、ってやっぱりアレか?」

「うん、アレだよ」

当然のように彼女は言う。

ちなみに2人が店に入った途端に店員はその準備をしていたというのはここだけの秘密だ。



注文から30秒後。



「美味しいね、祐一」

「ああ、そうだな」


ニコニコしながら2人は注文したものを食べていた。


そして、いつも通り2人は食事をしながら、話に華を咲かせていた。

























日が暮れ、辺りが暗くなる。冬は夜が来るのが早いのである。


「ふぅ、今日も楽しかったな」

「うん」

「送っていこうか?」

「いいよ、今日はここまでで」


2人は今朝、出会った場所で向き合っていた。


「本当に大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ」


祐一の心配そうな声に彼女は少し頬を染めて答える。


「それじゃあ、また、明日ね。祐一」

「おう、またな」






























「舞」






























祐一の彼女、川澄舞に別れを告げ、祐一は一人家路へと着いた。

























あとがき

初の短編です。どうも最近「伝わる想い」が暗めなのでこっちは少し明るい話にしてみました。・・・なんか微妙な話になってしまいましたが。しかも舞が名雪とキャラが被っている様な・・・ところで、あれ?魔物は?佐祐理さんは?と思った方もいらっしゃると思いますが、そこら辺は次の短編で触れようと思います。









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