北川くんの野望 「名雪争奪戦」
Written by kio
突然だが、俺は水瀬が好きだ。
どうしようもなく好きだ。
どこが好きかと聞かれると、彼女の全てが好きだと答えてしまうぐらい好きだ。
授業中のあの可憐な寝顔、陸上部の練習で見せるハツラツとした姿、Aランチのイチゴムースを幸せ一杯に食べるあの可愛らしい仕草、何をとっても彼女は完璧だ。俺の鼓動を熱くする。
そんなわけで、俺は今日、水瀬に告白する。
・・・だが、その前にこの偉大な計画の絶対的な障害になるであろう水瀬の従姉妹で転校生の憎い奴、相沢祐一を抹殺しなければならない。
「と言うわけで、相沢、死んでくれ」
「はあ?お前何言ってんだ」
俺はニヒルに「ふっ」と一笑すると、懇切丁寧に一から説明する。
「・・・というわけだ」
ちなみに今は休み時間で水瀬はいつものように熟睡中だ。この状態の彼女はちょっとやそっとのことでは起きやしない。流石に俺でもこんな話を水瀬に聞かれると恥ずかしいからな。
「ふーん」
「って、それだけか」
あまりにもあっさりしすぎている相沢に俺は少し拍子抜けする。
「いや、俺には関係ないし」
「それは何か、あんなに毎日、毎日水瀬とべたべたしているのに、見て見ぬふりをするのか?それともお前の余裕なのか?俺には絶対とられないという自信なのか?えっ、どうなんだ?」
俺は我を忘れて相沢に急接近する。これぞまさしく鬼気迫る勢いというやつだ。
「そんな、物凄い勢いで迫られてもなあ・・・」
相沢は少し引いているようだが、俺には関係ない。関係あるのは水瀬のみ、水瀬オンリーだ。
「それにな、それはお前の目の錯覚だ。そもそもあいつは従姉妹だぞ」
相沢が見苦しい言い訳をする。・・・従姉妹、羨ましすぎるぞ。しかも、こいつはその特権を利用して、水瀬との同棲生活を楽しんでいる。こんなことが人として許されると思っているのか。否、許されん。行ってみればこいつは全人類の敵なのだ。
だが相沢は「毎朝、あいつのせいでマラソンするはめになるし、待ち合わせをしたときも永延何時間も待たされるしで、こっちはいつも苦労しているんだ。だからな、恋愛感情なんて持てるはずがないだろ」とか何とかと言って、俺に追い討ちをかける。・・・これは明らかに俺に対する自慢だ。侮辱だ。
「くっ、そんな自慢話聞きたくもないわ!!」
「・・・はぁ、とりあえず、俺と名雪は何でもないから、勝手に告白でも何でもしてくれ」
相沢はさもどうでもいいような感じで手をひらひらさせる。だが、俺は騙されんぞ。
「相沢!貴様の魂胆は見え見えだ。俺を油断させて、水瀬を、水瀬を、俺の水瀬を奪うつもりなんだな!!」
「・・・お前、一回病院に行け」
相沢の野郎、俺に病院に行けだと・・・「貴様、何様のつも・・・
「なんですって、名雪を相沢くんが奪うですって!そんなことはさせないわ。私の名雪は相沢くんにも北川くんにも渡しわしないわ」
何!?美坂も敵なのか。俺は美坂の言葉に戦慄した。
「・・・あのさ、香里」
「何?相沢くん」
先程の感情丸出しの口調はなりを潜めて、いつものクールな対応をする美坂。・・・極端過ぎて、なんだか怖いぞ。
「お前って、名雪のことをそんな目で見ていたのか?」
「・・・・え?何のこと」
美坂は相沢の質問に全く心当たりがないという様子で言う。
「いや、『私の名雪を渡さない』とか何とか言っただろ、今」
美坂の顔が一瞬で真っ青になる。
「そ、そんな、声に出していたと言うの・・・」
どうやら、美坂は無意識のうちに考えていたことを声に出してしまっていたらしい。
「そ、それじゃ、『馴れ馴れしく水瀬、水瀬、言うじゃねえよ北川!』とか『うらやましいわ、相沢くん』とかも声に出していたと言うの!!」
「い、いや、それは言ってなかったぞ」
相沢はかなり引いていた。加えて、他のクラスメート達も引いていた。教室中から「まさか、美坂さんが!?」とか「あれが学年一位の本性か」とか「だおー」とかいう会話が交わされていた。・・・それよりも、俺としては美坂の態度が相沢と俺ではあまりにも違うということの方が気になるのだが。
美坂は一瞬はっとした表情を見せる。そして、皆の様子から自分の失言に気付いたのか、脱兎の如く教室から出て行った。美坂の目からは光るものが見えたような、見えなかったような・・・そんな微妙なところだった。
「よし、会話に戻るぞ」
美坂のせいで話がそれてしまったので、仕切りなおす。
「・・・俺はもう呆れるのを通り越して、お前には尊敬の念を覚えるよ」
相沢は何故か疲れ切っていた。・・・変な奴だな。いや、それよりjも、
「俺は今日、水瀬に告白する」
「もう、それ聞いたし」
む?何だと。・・・・(少し思案中)
「・・そうだったか?」
『やべえよ、こいつ』とか言う相沢の声が聞こえたような気がしたが、無視した。まったく、相沢は本当に変な奴だな。だから、こいつには水瀬は渡せない。
「そう言うわけで、お前には死んでもらう」
「・・・だから、告白でも何でもすればいいだろう」
止めないのか?
「・・・・・・・・そうだな、そうするか」
俺は決意を固めに水瀬に・・・
「そんなことはさせないわよ、北川くん!!」
美坂が物凄い形相で戻ってきた。ちなみに出て行ってから二分と経っていない。
「美坂、それは俺の邪魔をすると言うことか?」
「そうよ、名雪をあなたのようなチンケなアンテナにやるわけにはいかないのよ」
「これは癖毛だっ!!」
「そんなのどっちでもいいわよ」
どうでもいいなら、言うなよ。と俺は心の中で突っ込みを入れた。ちなみに相沢は『・・・そうか、開き直ったんだな、そうなんだな、香里』
と何かを悟ったようなに言っていた。
「今はあなたよりも先に名雪に告白して、名雪を手に入れるほうが先決よ」
何?美坂が俺よりも先に告白するだと。
「美坂、お前に水瀬は絶対に渡さない」
俺の決意はどんな障害をも乗り越えるんだ。全ては水瀬との愛のために。
「北川くん、あなたごときに名雪が振り向くとでも思っているの?」
「ふっ、俺を甘く見るな」
これは戦いなのだ。愛しい人をかけた戦い。それはもう始まっている。ここで美坂に遅れをとるわけにはいかない。
「どうかしら。名雪が私以外に振り向くとは考えられないわ。絶対」
「ずいぶんな自信だな」
挑発するように俺は言う。
「そうね。でも、私は念には念を入れるタイプなの。・・・だから、あなたが告白する前に私が名雪に告白するわ」
「出来るものならしてみな」
俺は水瀬を起こそうと・・・
「み、水瀬さん、ぼ、ボクはあなたのことが好きです。つ、付き合ってください」
「「!?」」
さ、斎藤、貴様、何を言っている!?・・・水瀬が起きてる!いつの間に・・・?
だが、俺の疑問もそこまでだった。
「・・・うん、いいよ」
み、水瀬が、さ、斎藤の告白を、OKし・・た・・・・そ、そんな、・・・そんなことがありえるはず・・・
「こ、これは夢、そう夢だ」
そうだ。俺は夢を見ている。そうに決まっている。
「そ、そうよ、これは夢よ」
ほら、美坂だって同意している。これは夢に間違いないな。
「バカだろ、お前ら」
相沢の声が聞こえたような気がした。
「・・・くっ、水瀬・・・」
あれから俺と美坂は過酷な現実を知ることになった。斎藤が水瀬に告白してOKをもらったと言うのは夢ではなかったらしい。
そんなわけで、俺は授業をさぼり屋上で男泣きをしていた。何故か相沢もいる。理由を聞いたら、『お前、自殺しそうで怖いから着いていくよ』と言われた。ああ、そうだよ、俺はそれほど悲しいよ。ちなみに美坂は教室で魂の抜けた人形のような状態になっていた。・・・それにしても、相沢は何故、あんなに普通にしていられるんだ。
「相沢、お前、水瀬が斎藤に取られても平気なのか?」
「だから、何回も言うが、名雪と俺は何でもないんだって。つーか、俺、彼女いるし」
初耳だった。
「そうなのか」
「ああ」
まぁ、秘密にしていたからなと相沢。
「ところでお前の彼女って一体誰なんだ」
相沢のような男の彼女だ、興味が湧かないはずがない。・・・まぁ、相沢の彼女なんだからよほどの変わり者だろうがな、と俺は一人結論を出す。
「ん、お前の妹だ」
「・・・・」
誰の妹?
「なにいぃーーーーーーーーーーーーーっ」
やはり相沢は消すしかなさそうだ。
あとがき
10000hit(雪朗さん)リクエストSSです。・・・この作品でつくづく私はギャクが書けないなぁ、と再認識。リクエストは祐一と北川のギャグでしたが、これでは北川と香里のギャグの感じがしなくもありません。なんと言うか、「伝わる想い」が完結するまでは祐一のキャラはなるべく壊さないようにしようと密かに決めているので、そこら辺は許してください。・・・言い訳ですね。すいません。最後に雪朗さんが満足出来るような作品では無いかもしれませんが、寛大な気持ちで許してもらえれば幸いです。