「くっ」


俺は苦痛を堪える。


「・・・俺はこんなところで死ぬわけにはいかないんだ・・・」


目の前にはおびただしい数の異形の化け物。何故こんなことになったのかは分からないが、俺は奴等と戦っていた。だが、奴等の力は絶対的で、俺はもう限界だった。


「あいつを・・・あいつを助けな、け、れ・・・ば・・・」


俺の意識は闇の中へと沈んでいった。






























「祐一の彼女さん」番外編 真夏の夜の夢

Written by kio










・・・くっ、頭が痛い。風邪か?目の前が真っ暗だ。・・・どうしてだ?

徐々に思考がはっきりとしていく、俺は確か・・・そうだ、俺はあの化け物にやられて、


「大丈夫かね」


近くで低い男の声がする。目の前がまだ霞んでいて、声の主の姿が確認できない。


「・・・あんたは?」

「どうやら意識は戻ったようだな」


俺の質問には答えず男は言う。その口調には何故か静かな威厳が感じられる。


「ところで、君はこの状況を理解しているかね」


状況?どういうことだ。


「・・・ふむ、視力はまだ回復していないようだね」


目の焦点が合わさっていないことが分かったのだろう。


「今、我々の置かれている状況は簡潔に言って良くない。周りにいる『敵』の数はゆうに100を超えている。これをどうにかするのは正直、難しい」


難しいと言いながらもそんな雰囲気は微塵も感じられない口調で言う。


「敵と言うのはあの化け物のことか」

「ほう、君はあれが見えるのかね。アレは『力』を持っている人間にしか見えないはず・・・ふむ、君も『力』の所持者か」


男は何かを理解しているようだが、


「言っていることが分からないのですが・・・」


正直、男の言葉に俺は困惑している。そもそも、あの『敵』と呼ばれる化け物は何なんだ?あの存在だけで俺の常識が覆されている。それに『力』とは?様々な疑問が浮かぶ。


少しの思案の後、俺の視力が急速に回復した。そして、俺の目の前には


「!?あんたは・・・会長」


そこに居たのは全校集会などでよく目にするこの学校の生徒会長だった。だが、何故こんなところにこの人が。


「視力も戻ったようだし、・・・始めようか」


始める、何を?

俺の疑問に答えるかのように、会長は右手を奴等にかざす、そして


「あなた方の魂狩らせて頂きます」


黒の光が放たれる。闇よりも深い黒が化け物達を覆う。

一瞬の後、黒い光が拡散し、化け物は消えた。


「あ、あんたは何者・・・」


何なんだこれは?何故化け物が消えた?あの黒いものは何だ?あんたは一体何者なんだ?会長


「ふう、8体残りましたか」


・・・確かに異形の存在が数体残っていた。だが、それでも先程まででは到底考えられない数までに減少していた。


「ところであなたの名は?」

「え、ええと北川潤です」


場違いな質問に俺は戸惑った。・・・ちなみに会長は久瀬なんとかという名前だった記憶がある。


「では、北川君、私の『力』はもう打ち止めだ。後は任せるよ」

「え?」


ドサッ


会長は糸が切れたかのようにゆっくりと、重力に任せて、地に伏した。


「か、会長?」


あまりにも自然に倒れた会長を前にして、俺は一瞬思考が停止した。

・・・どうすればいい。まずはその言葉が頭をよぎった。この状況についていけていないことは十分に分かっていた。だが、その上で俺は何かをしなければいけない。あの化け物に捕まったら確実に死ぬ。俺の直感がそう告げている。・・・こんなところで死ぬわけにはいけない。あいつを、あいつを助けに行かなければ。


「だが、どうする?」


とりあえずは目の前にいる8体の化け物をどうにかしなければいけない。当たり前の話だかあんな生物見たことが無い。しいて言うならRPGのゴーストに一番近い。不幸中の幸いか、さっきの影響で今のところ奴等は行動を見せてない。それはありがたい話だった。だが問題はこいつ等には物理的攻撃が全くといって良いほど効かないと言う点にある。そのことは先程の戦いで嫌と言うほど理解していた。かと言って、俺には会長みたいな不思議な力があるわけでもない。・・・いや、そうなのか?確か会長が俺のことを『力』の所持者とか言っていた覚えがある。だが、『力』とは何なんだ?どうやれば使えるんだ?分からない。分からないがどうにかしなくてはいけない。


「!?」


奴等が唐突に動き出した。速い!!明らかに俺を狙っている。・・・負けるわけにはいかないんだ。こんなところで死んでたまるか!!

無意識の行動だった。ただ無意識に俺は奴等に左手を突き出す。そこから深く赤い光が発せられる。

・・・気がつくと血の色にも似た赤がこの空間全てを包み込んでいた。


「こ、これは・・・?」


そして、音も無く異形の存在は形を失った。










北川潤、赤の光を纏う者。運命の左翼を担う。










「これが俺の『力』・・・?」










彼の戦いはこの瞬間から始まった。

























ここに運命が一枚。

























あとがき

9000hit(C男さん)リクエストSSです。扱いは「祐一の彼女さん」の番外編になります。今回は『北川の短編』というリクエストでしたので、主人公はもちろん北川、サブは久瀬。ジャンルはシリアスSSファンタジー風味です。なお、この話の続編は「祐一の彼女さん」の本編かキリ番を踏んだ方のリクエストにだけ公開される番外編になります。それではまた、お会いしましょう。









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